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国の無形文化財になっている上海の醤油

~銭万隆醤油~

 上海料理には欠かせない醤油。例えば、上海風味のラーメンは極めてシンプルな醤油ベースだし、ワンタンを食べるときも醤油は欠かせない。豚の角煮などで代表される『紅焼』の料理ポイントもやはり醤油だ。

 この上海料理に欠かせない醤油を130年近く作り続けている工場が、上海浦東新区の張江鎮北街にある。それが国の無形文化遺産にも登録されている『銭万隆醤油』だ。

 時は清の時代、人々にとって醤油は今よりもっと日常生活には欠かせない調味料で、多くの企業が先を争って生産した。これで大もうけした企業家も少なくなく、19世紀半ばには上海だけで6~7軒の大規模な醤油製造工場があった。こうした工場を『醤園』と呼んでいる。さらに、地方からも醤油業者が参入し、20世紀前半には67の『醤園』が上海に形成された。

 資料によると、上海地元風味のもの、海塩エリア風味のもの、寧波風味のものに3つに大きく分かれていたそうだ。ちなみに、上海風味の醤油は赤っぽいものが特徴だと言われている。いずれにしろ、上海は中国でも有数の醤油産地であったことには間違いない。

 残念ながら、そうした老舗は、経済の発展に立ち後れ、次々と閉店しているが、創立1880年の銭万隆醤油が現在まで残っている。そして、当時と同じの自然製法で手間暇かけた醤油として、2008年度には中国の無形文化財にまで指定された。上海にこれほど有名な醤油があることはあまり知られていない。

 今ではコスト削減のために工場の一部を浙江省平湖に移転させているものの、浦東新区の張江鎮にその一部の機能を残している。工場内の敷地には醤油を製造するための瓶がずらりと並べられていて、往事の『醤園』を偲ぶことができる。清代には朝廷から『官醤園』の称号を受けているところからも、由緒のある醤油工場であることが分かる。現在で三代目になる技師も、12ある醤油の技法を守り続けているという。

 瓶に入れられた原料は5~6ヶ月かけて発酵させ、独特の香りがしてくる。原料は非遺伝子組み替えの中国国産(東方産)のものを使い、着色料などは一切使用していない。そして、代々伝わる瓶の中には、代々新しい原料が継ぎ足され、味が引き継がれているという。 

 しかしそこまでこだわった醤油でも、上海ではなかなか売れないのが現実らしく、また低価格の化学調味料を使った醤油が市場に出回るようになり、国営の老舗企業が苦況に立たされている。その結果、上海でいま残っている老舗醤油は2店舗しかなく、その一つが銭万隆醤油ということになる。

 ただ、残念なことに張江ハイテクパークの開発に伴い、現在の北街の工場も移転を余儀なくされていて、これから如何にしてその技術を守っていくのかは大きな課題となっている。浦東新区政府も、この貴重な醸造文化を守るために博物館を建設し、市民に広く知ってもらえるようにする計画を打ち出している。

 さて、エピソードについてはこれぐらいにしておこう。実際にこの醤油を買ってきて、食べてみないと美味しいかどうかは分からない。上海市内では、南京東路にある第一食品商品などに行けば、確実に手に入る。値段によっていくつかの違いがあるが、やはり同じ買うのなら、「特晒醤油」を選ぼう。300CCで10元前後なので、上海で普通に売られている醤油に比べると高い部類に入る。

 ふたを開けてみると、日本の醤油と比べるとかなりマイルドな香りがする。上海で売られているキッコーマンの醤油と比べても、香りは控えめだ。

 しかし、どろっとしたとろみは特徴的。味を比べてみても、日本の刺身醤油の方が塩辛く感じ、旨みが強い。一方で、『銭万隆醤油』は、少し甘みがあるものの、ほどよい旨みを舌で感じることができる。

 ここで私も甘系の上海料理には欠かせないアイテムだと確信した。

 せっかく上海に居るのだから、ちょっと本格的な上海の醤油を使って、本格中華を料理してみるのも、たまにはいいかもしれない。

 というか、塩辛さ加減がちょうどいいので、日本料理にも使ってみたくなった筆者であった。

20087月記山之内 淳 

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