|
中医学は患者の過去からそのときまでの変化とその症状を非常に大切にする。一方で、「慢性胃炎」というような病名だけを言われても、すぐに最適な処方を組むことができない。
中医学ではよく全身を診るという言い方がされる。「整体概念」ともいうが、そのために医師は患者から様々な主観的な情報も得なければならない。これは検査の数値データからだけでは分からないものであり、いってみれば患者が診察室に入った瞬間から、医師の観察が始まるのだ。
中医学といえば、舌や脈を診ることは非常に有名だが、この舌と脈は非常に多くの情報を提供してくれる。舌は主に苔の状態や色、形などをみる。脈は、脈の力強さ、位置、間隔、規則性などを総合的に判断する。ここで注意したいのは、診察を受ける前に、激しい運動をしたり、舌の苔の色が変わるような食べ物(飴や飲料水、薬など)を食べないようにしたい。
脈や舌を診ながら、医師は患者にさまざまな質問を行う。暑がりか寒がりか、喉が渇くか渇かないか、睡眠は、などなど一見すると自分の病気と関係のないような質問をする場合もあるが、これらすべての情報が実は生薬を処方する上で極めて大切な役割を果たす。たとえば「慢性胃炎」でも、どのような痛みがあって、痛む時間はどのくらいか、などきめ細かく質問した上で、初めて生薬による処方の骨組みが作られていくのだ。そうやって骨組みができると、医師は患者の前で、スラスラと処方を書いていく。どんな患者でも時間とともに様態は変化するので、普通は2週間程度の処方を出すのが限度だ。初診の場合は長くても1週間後ぐらいに再診する。そして患者が来るたびに、処方を書き改めていく。同じ処方を変化なしに盲目的に長時間服用することは、生薬といえども副作用の危険があるのだ。過去に日本で起こった漢方薬による副作用の背景に一部患者による長期服用の問題があったことは否定できない。従って、たとえばAさんに効いた処方が、そのままBさんにも効く、ということはほとんどありえず、それぞれ細かな微調整が必要とされる。
生薬だから効果が遅い、とよく言われるが、実はそうでもない。自分の症状に本当にぴったりとあった処方にめぐり合えれば、劇的に変化する場合も多い。1ヶ月以上続いた咳が、生薬を服用し始めてから3日で納まった、というような例も少なくない。しかし残念ながら、日本人の患者の多くは、慢性状態になってから中医学や漢方医学の門を初めて叩くので、なかなか思うように治療効果があがらない場合も多い。実は西洋医学同様に、中医学でも早く手を打てば、それだけ早く治すことができるのだ。
中国の病院で生薬による治療はもちろん、針治療や推拿を行うのも、みな中医学の医師であるために、様々な検査を受けることができる。場合によっては肩こりで針治療や推拿を行う場合でも、X線、CTなどの検査で原因を突き止めてから治療を行う場合もある。伝統医学による理論だけではなく、西洋医学による分析も交えながら治療を行えるのは、中国での中医学治療の特徴とも言える。また針治療や推拿による治療で、生薬を併用すれば効果が見込まれる場合は、生薬も当然処方される。中薬と針、推拿はどれも中医学の範疇に入り、同じ理論を母体としている強みであると言えよう。
忘れてはならないのは、生薬を服用したあとの体の反応だ。人によっては、下痢を起こしたり、まれにアレルギー反応を起こす人もいる。生薬を服用後の体調の変化にはくれぐれも注意し、自分にあっていないと思えば、服用を中止して、医師と相談することを忘れないようにしたい。多くの場合は中薬そのものが悪いわけではなく、処方自体に問題がある場合が少なくない。これら患者の反応をもとに、処方が改良されていく。
|